2015.06.16 | International
2015年6月3日からベルリンでISMICSという低侵襲手術をテーマにした学会の定期学術集会でポスター発表をして参りました。
ブランデンブルグ門 | ライプチヒ中央駅 | ベルリン中央駅 |
2日目からの参加となりましたが、その日は僧帽弁(M弁)・大動脈弁(A弁)の低侵襲手術(MICS)、TAVIやTEVARの発表が行われておりました。その中でsutureless valveを使った大動脈弁置換術の話が印象深かったのですが、縫合なしで圧着する為当然縫わない分、人工心肺時間・手術時間ともに大幅に短縮でき良好な成績のようでした。
今回の私の発表は2演題採択されており、一つは肺塞栓のredo症例に対してMICS手技を使い血栓除去をうまく行えた1例報告で、もう一つは静脈斜切開での大伏在静脈を使用したsequential バイパスの成績の発表でした。英語でプレゼンしましたが、前者の方は無難に乗り切ったものの後者の方は時間が足らずかつ2つあった質問の一つにはしっかりとは答えきれずに悔しい思いをしました。もっともっと英語力を鍛えないと世界ではまともにディスカッションできないことを痛感しました。
3日目はmitral clipとM弁のMICS手術のLIVE手術の中継を見ることができました。mitral clipは日本ではまだ治験段階とのことでこれまで見たこともありませんでした。日本でもできるようになれば、経カテーテル的な治療の為、開胸の手術に耐えられない僧帽弁閉鎖不全症の患者にとっては朗報になります。世界では低侵襲化がどんどん進んでいるようです。
最終日は午前で終了の為、午後をベルリン観光に当てました。近未来的なベルリン中央駅やビルの上に傘のような屋根のあるソニーセンターがある一方でベルリンの壁や大聖堂など歴史を感じさせる建造物が混在しており面白い街でした。 また偶然にもこの日にサッカーのクラブチームのヨーロッパ一を決める決勝戦がベルリンで開かれる為、日中から町中お祭り騒ぎでした。主要な駅ではユニホームを着たファンの歌声が響き、町の広場では太鼓なども鳴り響いております。熱狂的なサポーターが集まるブランデンブルグ門ではフットサルの試合も開かれており、思わず試合に参加しようかと思う様な陽気な雰囲気に包まれておりました。
次の日は移動日にして次の週を施設見学に当てました。月と火はBad Oeynhausen水はLeipzip、木は再びBerlinのそれぞれHerzzentrum(ドイツ語のハートセンター)に行くという、ドイツの北から東にかけてぐるっと回るようなやや強行な日程でした。
ドイツでの移動は主に電車でした。ここで日本との違いを幾つか。まず駅に改札はないこと、自転車もOKなこと、座席はゆったりですがスピードもゆったりした感じです。
Bad Oeynhausenのハートセンター | ライプチヒハートセンター | ベルリンハートセンター |
さて1つ目の見学したBad Oeynhausenはハノーファーから更に西南に行った田舎にある施設です。ところがここがドイツでの1番心移植をしているというのだから驚きです。ドイツで行われている年間300件の心移植の内、ここで70-80件程が行われるとのことでした。ここでは日に15-17件程の手術を8つの部屋で行っておりました。ドイツのhigh volumeな施設は前室で導入・A line・CV lineを確保してから入室する為、一件終わったら片づけしている間に導入してと次々とベルトコンベヤー式に手術を進めるからこそ、それだけの手術数がこなせるようです。日本人の先生は4人おられいろいろ話を聞くと以前はもっと件数が多かったそうで、最近は複合手術・redo症例が多くなっていること、看護師さん等の休憩時間確保で間が空く様になり総件数は減っているようです。ただそれだけ数をこなしている為、達人のような先生がいらっしゃり私が最初に見たAVR+CABG1+左心耳切除術を2時間台で完遂してしまうとう驚異のスムーズさでした。途中から見た手術も合わせると初日だけで5件見ることができ大変参考になりました。
翌日も同じ施設でしたが朝から慌ただしい感じです。聞くと前の晩に解離がきて人員もゆとりが無いようでした。私は(残念ながら?) 呼ばれなかったのですが…。そこへ来て、心移植が3件緊急で入ったとのこと。ベルリン・ハンガリー・スロバキアでドナー心が見つかったようです。お陰で初めての心移植を見ることができ貴重な体験となりました。
次の日はライプチヒのハートセンターでした。ここは6室+ハイブリッド3室合わせて計9室の手術室がありICUが40床とこれまた大きな施設です。この日は運よくmitral clipの症例が2件、TAVIが1件あり間近でmitral clipを見ることができました。同時刻の手術を行ったり来たりでここでも夕方までに5件見て、ベルリンへ移りました。(ライプチヒハートセンター玄関)
最後はベルリンのハートセンターでした。ここは8つの手術室と別院にも2室あるような大きな施設で日に10数例の手術があります。VAD症例も多くVAD患者のVACシステム(吸引式陰圧閉鎖療法)の洗浄手術が日に数件ある時もあるようでした。
見ていて当院と同じような感じでしているなと思えることも半分位はありましたが、日に数件手術をこなすような達人の洗練された手技をみることができ大変勉強になりました。今回見学した施設はどこも30人前後のドクターがおり日本の施設と状況は異なります。また医療のシステム・基盤も異なるので単純に真似はできませんが、技術で進んでいる面は取り入れて、最終的には患者さんに還元できるよう今後も努力して参りたいと思います。
古井雅人