2014.09.02 | Operation
1998年から2013年の15年間で633人のA型急性大動脈解離の手術をさせていただきました。男性303人女性330人で平均年齢は68歳で最高齢は94歳でした。80歳以上は128人でした(後で詳しく述べます)。260人(41%)が破裂で9人が心停止状態でした。ショック状態が61人(9.6%)でした。脳梗塞が1割に認めました。
手術は、上行大動脈、半弓部置換が548例(86.9%)で弓部置換が47例(7.5%)基部置換27例(4.3%)でした。弁の手術を追加したのは66例、冠動脈バイパス術を追加したのは23例でした。
手術死亡は92人で死亡率14%でした。すなわち86%の救命率でした。腸の虚血を合併した例、術前心肺停止等の重症例ほど手術の危険率が高くなりました。
急性A型大動脈解離に対する当院の治療方針は、原則手術です。48時間以内に破裂、心筋梗塞、脳梗塞にて死亡する確率が5割程度と危険な状態だからです。大動脈径、偽腔の状態に関わらず手術適応とします。もちろん術前の元気度や家族の意向を考慮し手術適応を決定しています。
上行大動脈の解離 | 解離の補強 | 人工血管に置換 |
人工血管の置換範囲は年齢を問わず内膜亀裂の位置で決定している。上行大動脈に亀裂を認める場合は上行置換、弓部大動脈小湾側に認める場合は上行半弓部置換、弓部三分枝近傍に認める場合は上行弓部置換、遠位弓部以降に認める場合は上行置換術を原則としている。
送 血部位は大腿動脈を第一選択としているが、術前の造影CTにて大動脈瘤や内膜の不整、粥腫を認める場合は腋窩動脈に人工血管を吻合し送血としている。脱血 は右房からの一本脱血を原則としている。断端形成は、近位側は解離腔をボルヒールで圧着し、その後、内外に帯状フェルトを置き、フェルトサンドイッチにて 補強している。遠位側はフェルトサンドイッチのみの場合が多い。人工血管吻合後に、吻合部に外側から針穴を覆うようにバイオグルーを塗布している。
手 術の流れとしては、体外循環開始後、上行大動脈を遮断し、心停止後近位側の断端形成を行い、直腸温28℃で循環停止とし、選択的脳分離還流補助下に末梢側 の断端形成、吻合を行い、人工血管の側枝から送血を再開する。弓部置換の場合は、頚部分枝を順次再建した後、復温開始とし、最後に近位側の大動脈吻合を行 い、大動脈遮断を解除、体外循環から離脱している。
急性A型大動脈解離(腹部まで及ぶ) | 急性A型大動脈解離(限局型) |
人工血管置換術後 | 人工血管置換術後 |
この5年間で400人の急性大動脈解離の患者さんを受け入れ、203人の患者さんの緊急手術を行いました。96%が他院からの紹介で、今後も東海地区の近隣の救急病院、循環器科とのチーム医療で救急医療を頑張っていきたいと思います。
高齢化社会に伴い高齢者の急性A型大動脈解離の手術件数が増加してきました。当院施設における、1998年から2013年までの80歳以上の急性A型大動脈解離に対する緊急手術は128例ありました。
性別は男性33例、女性95例とやや女性が多く、最高齢は94歳でした。基礎疾患は高血圧症108例(84.4%)、脂質異常症32例(25.0%)、糖尿病32例(25.0%)、腎機能障害20例(15.6%)であった。維持透析患者は1例であった。
破裂は76例(59.4%)で認め、術前に循環動態が不安定だったのが26例(20.3%) 来院時心肺停止1例、心タンポナーデ/ショック状態25例でした。
解離の範囲は126例の内、38例(21.9%)が上行大動脈限局であり、88例(68.8%)が上行大動脈を超えていた。内膜亀裂の位置は上行大 動脈80例(62.5%)、上行弓部移行部1例(0.8%)、上行および弓部大動脈1例(0.8%)、弓部大動脈12例(9.4%)、右冠動脈1例 (0.8%)、遠位弓部大動脈よりも近位に亀裂が確認出来なかったのは33例(25.8%)であった。
合併心臓手術を伴わない上行置換術の平均体外循環時間は184.4分、平均心停止時間107.1分、平均循環停止時間48.0分、合併心臓手術を伴わない全弓部置換術の平均体外循環時間は285.0分、心停止時間179.3分、循環停止時間59.3分であった。
一週間以内の死亡は11例(8.8%)、一ヶ月以内の死亡は18例(14.4%)でした。平均入院日数は44.1日、76例(60.8%)で自宅退院し、24例(19.2%)が施設への転院であった。90歳以上の8症例では手術死亡はありませんでした。
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