心臓外科の歴史は120年前に遡り、心臓の外傷に対して修復することから始まります。1893年にシカゴの外科医Dr Daniel Hale Williamsが、喧嘩で心臓を刺された24歳の男性に対して胸を開き血管の出血と心臓を包む心膜を修復しました。フランクフルトの外科医Dr. Ludwig Rehnも1896年に刺された22歳の男性に胸を開き穴の開いた右心室をシルクで縫い成功させました。その後第2次大戦中にアメリカの外科医Dwight Harkenが心臓の中の弾丸の摘出を行ないました。彼は150近い心臓の弾丸摘出手術を行い大戦後この経験をもとに心臓手術にとりかかりました。この第2次大戦中での外傷に対する手術により皮肉にも外科学、麻酔学の進歩を見ました。また軍医として厳しい環境で働いた若い外科医たちのハードワークがその後の心臓外科の厳しい道のりを切り開いたといっても過言ではありません。
外傷ではなく病気に対して最初に心臓手術を行ったのは1908年のライプチヒのFrederic Trendelenburgであり、肺梗塞に対して開胸にて肺動脈からの血栓除去を試みています。3例とも死亡しましたが彼の弟子であるMartin Kirschnerが1924年にこの手術を成功させています。1937年にボストンのJohn Gibbonが同様の手術を行っていますが死亡率は94%でした。この悲惨な結果をみてJohn Gibbonは人工心肺装置の開発に着手していきました。
その後、心臓の中の病気を修復する手術は困難を極めました。手術中に全身の循環を止めてはいけない、出血させてはいけない、赤い血液で心臓の病変が見えない等の障害があり悲惨な結果の連続でした。そこに、人工心肺装置の開発とともに心臓外科の黎明期が始まりました。第二次大戦前後の頃であります。その当時の心臓手術をする患者さんは呼吸困難で苦しみもがき今にも息が止まる状態がほとんどで、手術そのものが危険でした。重症の心臓病の子供に対する手術も行なわれましたが、ほとんどが手術中に死亡する悲惨な状態でした。多くの労 力と費用がかかりました。一般の方々のみならず医療関係者からの非難の目にもさらされました。難しい心臓病を手術するより新しく子供を産んだ方がいいのでは、 という意見もその頃は囁かれました。多くの失敗を超えてその失敗を糧として、先人の心臓外科医はハードワークと患者を救いたいという信念で心臓手術を成功 させていきました。超一流病院でなく決してエリートでなかった個性ある心臓外科医の努力と野心で成り立っている心臓外科の歴 史を紹介します。