肺の血管内(肺動脈)に血の固まり(血栓)が詰まり肺の血流が低下し呼吸困難、チアノーゼそして最悪の場合死にいたる恐ろしい病気です。足の静脈内で固まった血栓や塞栓が飛んで肺動脈に詰まるのが原因です。肺動脈が詰まることにより右心室から肺動脈への血液の流れがストップし右心室、右房への負担がひどく右心不全状態にもなります。詰まった塞栓の量、急に詰まるかゆっくり詰まるかで、症状の程度もさまざまです。ほとんど症状なくゆっくり進行するものから、突然死にいたるものまで、多彩です。1年間で1000人に1人が発症すると言われています。また、男性に多く高齢ほど発生しやすいと言われています。
下肢あるいは腹部の静脈の血液が固まり血栓となりそれが飛んで下大静脈、右房、右室そして肺動脈にたどり着きそこで詰ります。静脈内の血液は本来固まることがありませんが、以下の原因で固まり、それが飛んで肺動脈までたどりつくのです。
正常の体の動静脈 | 静脈内血栓 |
静脈の血栓が右房・右心室 そして肺動脈へ |
肺動脈内に血栓が閉塞 |
下肢の静脈で表面でなく深部にある静脈が血栓で詰まり足が全体に赤く痛く腫れることをいいます。これが原因となり足の血栓が肺動脈に飛んで詰まり肺梗塞になる危険性があります。もっとも深部静脈血栓症が必ずしも肺梗塞になるわけではありません。ほとんどの深部静脈血栓症の患者さんが安静、抗凝固療法で肺梗塞になることも無く、足の症状が改善します。
例:じっと足を動かさない、足を曲げたままでじっとする
これはエコノミー症候群とも言われ航空機の座席でじっと座り続け足の静脈内の血液の流れが悪くなり、血液が固まることにより起こるものです。同じように長期運転、病気、手術、怪我による長期寝たきりなどでも起こる危険性があると言われています。肥満の方にも多いといわれています。
例:脱水、血液の病気、悪性腫瘍、手術後など血液そのものの異常で固まりやすくなり足の静脈に血栓ができて肺梗塞になります。
そのほか避妊薬服用、妊娠出産でも血液が固まりやすくなり、肺梗塞になりやすいと言われています。
骨折、整形外科手術後は特に足を動かさずに安静にすることもあり、肺梗塞になりやすいと言われています。
急性の場合は胸痛、呼吸困難からチアノーゼそしてショック状態に陥ることがあります。
慢性の場合はほぼ無症状からかるい呼吸困難、息切れ、咳等があります。
同時に足の血栓症状として足が腫れる、赤くなる等があります。
血栓の量、肺の障害の程度により呼吸の症状はさまざまです。喘息と言われていたのが実は肺梗塞であったということもあります。
まず診察させていただきますが、呼吸困難、ショック状態の場合は救命処置を優先します。状態が安定している場合は問診から診察そして各種検査を行います。
よく似た症状の病気として、心筋梗塞、解離性大動脈瘤、喘息、肺炎、肺気腫、などがあり、鑑別を要します。緊急で重症であれば肺梗塞を疑い診断治療を行いますが、慢性で軽度の場合診察だけでは診断が難しい場合があります。
心電図
右室の負荷があるため、肺梗塞に特異な異常所見が認められます。心筋梗塞との鑑別にも役立ちます。
胸部レントゲン
スクリーニングとして重要です。肺血管の陰影等である程度診断がつきます。しかし、正常に近いレントゲンでも肺梗塞である場合もあります。
超音波検査
まず足あるいは腹部の静脈を検索し、静脈内に血栓があるかが診断でき、肺梗塞の原因を見つけることができます。次に心臓および肺血管の超音波で血栓を認める場合があります。右室に負荷がかかっているため右室が拡大する所見で判断することもできます。
CT
造影CTをすることにより肺動脈に血流がないことで診断が可能です。CTで確実な診断ができます。
肺動脈造影
肺動脈にカテーテルを挿入し造影する事により肺動脈がはっきりと描出されます。肺動脈内の血栓で詰まった血管は造影されないため、しっかりと判断できます。肺動脈の圧を測定し右室の負荷の程度そして肺機能の程度が診断できます。
肺シンチグラム
肺の血流を見る検査です。慢性肺梗塞の場合に肺の全体的な血流の程度を見るのに役立ちます。
CT、肺動脈造影でほぼ診断が確定します。
症状、慢性か急性か また肺血管内の血栓の量によって治療法が違ってきます。また治療法にもさらに血栓ができないようにする治療と、実際に肺にある血栓を直接除去する方法があります。
抗凝固治療(予防)
血栓がこれ以上さらに固まらないように、薬物を使用します。症状が軽度の場合に行います。ヘパリンの点滴がもっとも一般的です。その後ワーファリンの経口薬の投与を行います。アスピリンの投与も予防としては効果的です。合併症として出血しやすくなります。脳出血の恐れのある方には慎重に投与する必要があります。
血栓溶解
ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、tPAという血栓を溶解する薬剤の注入を行うことによって、血栓を溶かして消失させる方法です。新しくできた血栓に有効な場合がありますが、必ずしも溶けるわけではありません。合併症として出血傾向がありますので、手術後、脳出血の患者には使用できない場合があります。
血栓除去
カテーテルで吸引する方法、手術で肺動脈内の血栓を直接取る方法があります。
カテーテル吸引:
肺動脈内に細い管であるカテーテルを挿入し、そこから遠隔で血栓を吸引したり、溶かしたりします。程度の軽い肺梗塞、小さな血栓には有効になります。大きな血栓、血管壁にこびりついて取れない血栓は不可能な場合が多いです。
手術:
胸を開け人工心肺装置を装着し、肺動脈を切開して、肺動脈内にある血栓を取り除きます。確実な方法ですが、手術の負担も大きいため、呼吸状態が悪化し、ショック状態で命にかかわるほど重症な場合に緊急で行います。血栓が肺動脈の奥のほうにあったり、壁に強くこびりついている場合には完全に取り除けない場合もあります。
慢性の肺梗塞でも重症な場合は手術で症状の改善が得られます。急性と違い肺動脈の壁そのものが肥厚し血栓も固くこびりついているため、血管の壁の内膜そのものを取り除きます。慢性の肺梗塞の場合は手術で肺血管の内膜肥厚も含めて切除するため高度の手技を要しかつその効果も病状により差があるため慎重に手術適応を決めています。
静脈フィルター
下肢あるいは腹部の静脈にできた血栓が心臓へ飛ばないように静脈内にフィルターを入れる治療法です。それにより、血栓ができてもさらに肺動脈内に血栓が移動しないようになり、肺梗塞を予防できます。フィルターは静脈内に穿刺したカテーテルで下大静脈に留置することができます。
下肢ストッキング
入院患者さん、手術の患者さんにはあらかじめストッキングを着用していただき下肢の静脈の血の流れを改善させ、肺梗塞予防を行います。
血栓の量、肺の障害、急性か慢性かでその後の経過は変わってきます。急性で大きな血栓の場合一刻を争い、緊急手術をしなければ死にいたることもあります。慢性で徐々に悪化する場合はいろいろな治療でもよくならず、手術が必要となる場合もあり、経過は決してよくないこともあります。血栓の量も少なくそれ以上悪化しない場合はほとんど正常に回復して健康な生活を送ることができます。
肺梗塞にならにための予防が大事になります。長時間の座った仕事、車の運転、バス、飛行機の座席での同じ姿勢はよくありません。また、水分補給をしないことにより脱水になり血栓ができやすくなります。同じ姿勢をとっておれば時々立ち上がって体操をしましょう。また、飛行機の中ではお酒は飲みすぎず水分補給を行いましょう。動脈硬化、肥満の方に静脈血栓そして肺梗塞になりやすいと言われています。生活習慣を正し、動脈硬化予防に努めましょう。