心筋症とは心臓の筋肉そのものの異常で心機能が低下する病気です。心筋症には拡張型心筋症が代表的で他に肥大型心筋症、拘束型心筋症があります。
正常 | 拡張型心筋症 |
拡張型心筋症とは
拡張型心筋症とは心臓の筋肉がぺらぺらに薄くなり拡張して収縮力が低下する病気です。収縮力、拡張の程度もさまざまでほとんど症状のないものから、動けないほどの重症なもの、突然死するものまでさまざまです。狭心症、心筋梗塞のように冠動脈が詰まったりして心臓の収縮力が低下するものは虚血性心筋症と言います。他に薬剤、糖尿病性、AIDS、アルコールが原因で拡張型心筋症になる場合があります。ウイルス性心筋炎が原因となることもあります。原因のはっきりしない心筋症もあります。
症状は
いわゆる典型的な心不全症状が出現します。
軽度の場合、動悸、息切れがあり、走ったり階段を上ると息切れ、呼吸困難がある。呼吸がぜいぜいする。咳がでやすい。足がむくむ。などの症状があります。
重症になると、じっとしていても息苦しい。仰向けに寝ることができない。呼吸が荒くなる。チアノーゼがでる等の症状がでて入院が必要となります。
診断は
心臓超音波検査
心臓超音波検査で診断が可能です。 |
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心臓超音波検査: 左室壁の著明な拡大、収縮力低下を認めます。 |
胸部レントゲン写真
心臓が大きく拡大している。肺がうっ血していることで拡張型心筋症の診断とその程度が診断できます。
心電図
心電図異常も多く見られます。心室性不整脈、上室性不整脈から左脚ブロックのように心筋障害、心筋伝導障害を示す所見が見られます。
血液検査
心臓の機能が悪化すると多くの臓器に十分な血液が供給できず臓器の障害を来たすことがあります。肝機能異常、腎機能異常などを認めます。BNPは心臓から分泌されるホルモンで、心臓に負担がかかると上昇し、心不全の程度がある程度分かります。
治療法は
内科治療
内科的な投薬治療が主になります。無症状で程度が軽い場合は投薬も無く様子を見ることもあります。
治療法の原則は心臓の負担をとることと、心臓の障害をこれ以上悪化させないことになります。
不整脈がひどい場合は不整脈薬の投与も行います。
患者の症状にあわせた治療になります。
利尿剤:
尿を強制的に排出させ心臓が拍出する全身の血液量を減らし、心臓の負担を減らします。
ベータブロッカー:
心臓が働きすぎて疲れないように、心臓の収縮力をやわらげる薬です。
降圧剤(ACE阻害剤など):
血圧を下げることによって、心臓が低い圧力で血液を循環させ、心臓の負担をとります。
これらの薬は、心臓の収縮力を改善するのではなく、心臓の負担を減らす薬であり、いわば効率のいい心臓にするようなものです。また心臓の負担を減らすことにより収縮力が改善する場合もあります。
そのほか、さまざまな薬があり、また最新あるいは開発中の薬もあります。
外科治療
・心臓移植
従来の内科的治療、外科的治療を行っても改善しない重症の心不全症状で延命、救命のできない拡張型心筋症では心臓移植が唯一の治療法となります。心臓移植では生存率は1年で80%、10年で70%と言われており期待できる治療となります。しかし、他人からの心臓を移植する心臓移植は、提供する人が脳死状態でなくてはならず、また生前に移植の同意が必要で家族の理解も必要であることから日本での心臓移植件数は極めて少なく待機期間も3年近くかかると言われています。最近では植込み型人工心臓治療を行い自宅で生活をしながら心臓移植を待つことも可能となってきました。
・人工心臓手術
心臓移植が現実的に無理な場合、人工心臓を移植する方法があります。医学、工学の進歩により様々な人工心臓が開発され臨床でも応用されるようになりました。人工心臓には体外型と植込み型があります。体外型は心臓の代わりをするポンプが体外にありそれと大きな駆動装置がつながっています。長期の使用は可能ですが退院することはできません。またその間に脳梗塞、脳出血、血栓症、ポンプ接合部の感染が併発する危険性があります。一時的に心臓を休ませて心機能を回復してから人工心臓を離脱する場合には有効ですが末期の心不全患者さんには離脱できずに心臓移植を待つしかない場合もあります。
体外式補助人工心臓の患者さん |
・植込み型人工心臓手術
日本でも最近になり植え込み型人工心臓の使用が始まりました。植込み型とは心臓の代わりをするポンプが体内に留置しており小さな駆動装置が体外にありロープで体内とつながっている装置です。ポンプは拍動型ではなく持続的に血流を流すタイプ(非拍動型:遠心ポンプ、軸流ポンプ)ですこの方法により自宅での生活も可能となります。社会復帰から結婚までされた方もいらっしゃいます。現在は、心臓移植を待つためのつなぎとしての治療法ですが、植込み型人工心臓の成績が良好でさらに機械のさらなる向上に伴いこの方法で一生生活を送ることも考慮されつつあります。当院では植込み型補助人工心臓認定施設となっております。
植込み型人工心臓手術 |
・バチスタ手術(左室形成手術)
拡張して大きくなりすぎた心臓はそれ自体効率が悪くなります。そのため、余分な心筋を除去して縫い直し小さくする方法がバチスタ手術です。その後心筋の切除範囲や縫い直す方法など各施設で多少の違いがあり、総称して左室形成手術と呼んでいます。逆転の発想の治療法ですが、患者さんによっては手術後に元気に回復し、効果が十分きたいできるものから、効果不十分で成績が不良な場合もあります。左室形成をした患者さんとしなかった患者さんを大規模に調べたところあまり生存率に差は無かったという報告もあり、手術適応は慎重になっています。よって、心臓移植以外に助からない重症の心不全でかつ弁の逆流がひどい拡張型心筋症にこの方法が考慮されます。
・弁膜症手術
僧帽弁閉鎖不全がある場合に僧帽弁を修復あるいは人工弁に置換します。心筋の収縮力低下、拡張は改善することはできませんが、弁の逆流を止めることで弱った心臓の負担を減らすことができます。
・両心室ペースメーカー手術
重症心不全の患者さまで左心室と右心室の動きに協調性が無く左右心室のリズムをペースメーカーで補正することにより心不全症状を改善させます。心電図上左右の心室の伝導時間に差がある場合にのみこの方法が有効と言われていますが。
・適度な安静
・体重増加に気をつける
・禁煙
・過度のアルコール摂取を避ける
・息切れしない程度の適度の軽い運動
これらは逆に心不全を改善します。
心筋がどんどん分厚くなり、心臓の機能が障害されていく病気です。遺伝的な病気とも言われていますが、必ずしも遺伝するわけではありません。まったく無症状で一生を過ごす方から、心不全で苦しむ方、突然死をきたす方までいます。若い方の突然死の原因のひとつでもあります。
左心室壁の異常な肥厚、特に心室中隔側の肥厚により 大動脈への流出が妨げられる、右図は正常心臓 |
症状は
いわゆる心不全症状がでます。動悸、息苦しさ、呼吸困難、喘息用発作などがあります。他に体のむくみなどの症状がでてきます。失神もおそろしい症状のひとつです。
診断は
まず診察させていただきますが、心雑音が聴取できることもありますが、決め手となる所見はありません。
心電図
左室肥大所見が特徴的ですが、他に心室性不整脈、心房細動などの不整脈も見られます。
24時間ホルター心電図
心室性不整脈による突然死の危険性があるので、この病気を疑う場合は必ず24時間ホルター心電図で突然死の心配がないか判断する必要があります。
胸部レントゲン
心拡大が見られます。
超音波検査
診断は心臓超音波検査で確定します。心筋の肥大、特に心室中隔の筋肉の肥大と、それによる左心室から大動脈への血液の流れが閉塞気味になることで診断できます。僧帽弁の逆流も合併することがあります。
治療は
症状の程度によって治療法にもさまざまあります。ほとんど無症状の場合は、このまま経過観察にて定期的に心臓超音波検査で観察します。 症状のある場合は、まずは投薬治療が主となります。
内科的治療
ベータタブロッカー:
心筋の過度な収縮を抑え、脈拍数を低下させることによって左室の拍出障害を抑えます。
ワソラン:
脈拍数の低下させるために使うこともあります。症状がひどい場合は逆効果になる場合もありますので、十分気をつけてください。
心室中隔切除術
肥大した心室中隔の筋肉が邪魔をして、左室の流出を障害しているので、この肥大した心筋を切除するか小さくする方法があります。 外科的にこの部分を切除する方法と、この心筋に栄養を与えている、動脈にアルコールを注入して肥大した心筋を小さくさせる方法です。
両心室ペースメーカー、植え込み型心室細動装置(ICD)
心不全の改善、突然死予防のために両心室ペースメーカー、植え込み型心室細動装置(ICD)を取り付ける場合もあります。 また、僧帽弁を人工弁に取り替えて弁を支えている乳頭筋を切除することによって症状が改善する場合もあります。僧帽弁の狭窄あるいは閉鎖不全を合併している場合には行われます。
程度によりますが、以下の点に気を付けてください。適度な安静、体重増加に気をつける、脱水にならないようにする、禁煙、過度のアルコール摂取を避ける、息切れしない程度の適度の軽い運動、はげしい運動は避ける、力を入れる運動(無酸素運動)はさける
拡張型、閉塞型とは別に、拘束型心筋症があります。心室の拡張や肥大はなく心筋の収縮力も正常であるのに、心室が硬くて拡がりにくい状態(拡張不全)になります。さまざまな原因、他の心臓病との合併もあります。拡張型心筋症や肥大型心筋症よりもはるかにまれです。